
ダニエル・ピンク – 著者紹介
著者のダニエル・ピンクはアメリカのベストセラー作家。
アル・ゴア元副大統領の首席スピーチイターとして活躍ののち、フリーエージェントに。
作家としても非常に著名で、「ダニエルピンクは3年後のビジネス界をつくる!」と、マーケターの神田昌典氏も絶賛しています。
出版は数年に1度と寡作なのですが、これは、彼の執筆スタイルによるもの。
本を読んでもらうとわかりますが、圧倒的なリサーチと裏づけに驚きます。
リサーチをするために、1つのテーマを決めたら家族と移動しながら集中して数年にかけて、執筆活動をしています。
彼の本に共通したテーマは、「この社会が豊かだからこそ、人間がすべきことは?」というもの。
これから社会に起こる変化を捉える力が反響を呼び、毎度ベストセラーになっています。
他の著書は『フリーエージェント社会の到来』『モチベーション3.0』『人を動かす新たな3原則』『When』など。
本書『ハイコンセプト』は2006年に出版されたものの、今読んでも新しく、今後時代に確実に起こる変化を体系的に知ることが出来ます。(翻訳は、あの大前研一氏!)
そんなことを知ってどうするの?と思われるかもしれません。
ですが、社会の変化を知っておくことで、これから求められるスキル、価値が急激に目減りするスキルを頭にいれておくことで。
数年後に「こんなはずじゃなかった・・・」となる可能性を下げられるとしたら。価値があることですよね。
左脳の時代から、右脳の時代へ
アメリカの労働市場に起きている驚きの変化・・・身の回りで、似た変化を感じたことはありますか?
・年収160万で雇える、インドの超優秀なITエンジニア
・会計業務のルーチン業務を代行するソフト、ターボタックス
・離婚に必要な法的手続きを3万円で処理してもらえるウェブサービス
今まで、学んだ知識を活かして報酬を得ている”ナレッジワーカー”はエリートとして活躍してきました。
ただ、今や彼らの仕事の重要な資質である”左脳的”業務は、ソフトやアジアの学歴も高く、安い賃金の労働者と競合しています。
日本では、いまだ資格や学歴至上主義で、弁護士、会計士などの”士”業につけば大丈夫。海外の有名大を卒業すれば大丈夫、という感覚はいまだに根強いです。
資格や学歴は全くの無意味、という主張はダニエル・ピンクもしていません。
しかし、”同じ労働市場の中で、アジアの優秀でもっと低賃金な労働力や、人間の仕事を代行するソフトウェアと争わないといけない”ということは確かな事実です。
これらは2006年の出版以前に、すでにアメリカに起きていたことです。いま、日本でもオフショア開発やfreeeなどの会計ソフトは業界に強い力をつけているので、変化を肌で感じている人も多いのではないでしょうか。
いまや”左脳的”資質だけでは、あなたの仕事を価値付けしていくことは限界があるのです。
キーワードは、豊かさ・アジア・オートメーション
今の仕事をこのまま続けていいか – 3つのチェックポイント
① 他の国なら、これをもっと安くやれるだろうか
② コンピュータなら、これをもっとうまく、早くやれるだろうか
③ 自分が提供しているものは、この豊かな時代の中でも需要があるだろうか
――この質問への答えが、①イエス、②イエス、③ノーなら、あなたが抱える問題は深刻だ。
そうダニエル・ピンクは呼びかけています。
豊かさ・アジア・オートメーション
この大きな時代の流れのキーワードとなるのは、「豊かさ」「アジア」「オートメーション」です。
今の時代を生き延びられるかどうかは、対価の安い海外のナレッジ・ワーカーや、高速処理のコンピュータにもできない仕事をやれるか、そして豊かな時代における非物質的で解しがたい潜在的欲求を満足させられるかどうかにかかっています。
もはや「ハイテク」だけでは不十分で、ハイテク力を、「ハイ・コンセプト」と「ハイ・タッチ」で補完する必要があるのです。
ハイコンセプト・ハイタッチ – 6つの感性
ハイコンセプト: 芸術的・感情的な美を創造する能力、パターンやチャンスを見出す能力、
相手を満足させる話ができる能力、見たところ関連性のないアイデアを組み合わせて
斬新な新しいものを生み出す能力
ハイタッチ: 他人と共感する能力、人間関係の機微を感じとれる能力、
自分自身の中に喜びを見出し、他人にもその手助けをしてやれる能力、
ありふれた日常の向こうに目的と意義を追求できる能力
ハイコンセプト、ハイタッチな6つの資質は、この6つです。
- 「機能」だけでなく「デザイン」
- 「議論」よりは「物語」
- 「個別」よりも「全体の調和」
- 「論理」ではなく「共感」
- 「まじめ」だけでなく「遊び心」
- 「モノ」よりも「生きがい」
左脳的に処理出来ない、コンピュータにも置き換えがしづらいものだということがわかると思います。
本書の魅力は、ダニエル・ピンクが大量にリサーチを重ねた事例と根拠が詰まった、それぞれの感性を説明した後半のパートです。
各章の最後には、すぐに試せるワークや沢山の参考書籍・ウェブサイトが紹介されており、それを眺めているだけでも”これからこのセンスを磨ける!”ということにワクワクします。
(クラシック音楽に興味はなくても、モーツァルトは聴きたくなった!という人、多数…笑)
「議論」よりは「物語」
6つの感性の詳しい説明はぜひ本書を実際に手にとって知ってもらえたらと思います。
1つ、気に入っていて例としてわかりやすいセンスがあるので紹介します。
ついつい、人に何かをプレゼンしたり、セールスをするときには機能やメリットを語っていないでしょうか。議論をするように、ロジカルに説明をするよりも、物語で相手に訴えかけた方が効果的な例が多く紹介されていました。
最近のCMでも、機能ばかりを推していた車よりも、機能を全く説明しないで、車に乗ると得られる楽しさを”物語”で伝えたCMが好感度を上げています。(ホンダのハスラーも売り上げを伸ばしました)
また、ストーリーによって心を動かされた実体験を挙げます。
ルイヴィトンのブランドストーリー
以前、私はなんとなく、ルイ・ヴィトンがあまり好きではありませんでした。
2つのストーリーで、変化が起きました。
1つは、ルイ・ヴィトンは元々、上流階級の方が船旅をするときのトランクから始まったブランドだと聞いたことです。
外がビニールで加工されているのも、何かあった時に海でつかまって助かったり、中のものを無事に守るためだそうです。重たく出来ているのも、当時限られた人しか出来なかった船旅にはポーターがいたため、重さを気にしなくて良かったからです。
そのストーリーを聞いて素敵なブランドだと思うようになったのですが、シンガポールのルイヴィトン旗艦店にて店員さんと話している時にさらに素敵なことを知りました。旗艦店は海の上に、不思議な三角のような形をした建物で、2階にあがるときに大きな階段があります。
店員さんいわく、その大きな階段は、ルイ・ヴィトンのルーツである船に乗るスロープをモチーフにしていて、店舗の建物は船の形になっているそうです。粋な演出に、かつてのネガティブなイメージはなくなっていました。
…と長く書いてしまいましたが、このようなストーリーによって気持ちの変化があったことはあなたにもあるのではないでしょうか。TEDトークなどの優れたスピーチや、優れた経営者もストーリーを上手に取り入れています。
まとめ
- 左脳の時代から、右脳の時代へ: 今や左脳的な知識だけでは、労働市場では価値を差別化出来なくなっている
- 豊かさ・アジア・オートメーション: この3つの台頭によって、ナレッジワーカーの地位が脅かされている
- ハイコンセプト・ハイタッチな6つのセンス: 「デザイン」「物語」「全体の調和」「共感」「遊び心」「生きがい」が今の時代を生き延びられるかを決める
2006年に書かれた本ですが、アメリカから少し遅れて、日本にもリアルに到来していることも多いので、今こそじっくりと読んでほしい一冊です!

(ダニエル・ピンク)